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Creators MeetUp vol.39

無限のパラドックス


このレジュメは、2016年4月30日土曜日開催の第39回Creators Meetupで務めた同名の高座のまとめとして書いた。無限に関わる3つのパラドックスを紹介する。なお、当日のYouTube録画をつぎに掲げる。


01 同心円のパラドックス

タイヤを1回転させれば、タイヤの円周の長さだけ転がる(図001)。

図001■タイヤを1回転させると円周の距離進む

図001

しかし、ホイールに目を転じると、タイヤと同じ長さ転がっている(図002)。ホイールの円周は、タイヤより明らかに短い。

図002■ホイールもタイヤと同じ距離進んでいる

図002

パラドックスに対する意味のない反応は、「そんなはずはない!!」と否定することだ。手品を見て、「ハンカチが卵に変わるわけない!!」と言い張るのと変わらない。「だって、手品だから」と返されるのがオチである。タネがわかってしまえば、むしろ「それが当然」と思えるようになる。

まず、ホイールがすべっているという説明は却下される。ホイールの1点がそのまま移動したとすると、タイヤは回っているのだから、回転角が合わなくなる(図003)。

図003■ホイールの1点がそのまま移動したらタイヤと回転角が合わなくなる

図003

こういうときの考え方として、似た現象で「当然」といえるものを探してみることがひとつの手だ。すると、フィルムの映写が思いつく。35mmのフィルムが大スクリーンに映し出される。フィルムから投影される点はすべることなく、1対1の一意に対応する。だが、フィルムとスクリーンは明らかに大きさが違う。

図004■投影点とフィルム上の点は一意に対応する

図004

02 無限ホテル

無限の大きさを比べるパラドックスとして「無限ホテル」がある。部屋数が無限にあるホテルだ。総勢は無限大の偶数一行が到着して、自分の数を2で割った部屋に入室し、ホテルは満室になった(図005)。

図005■偶数が自分の数を2で割った部屋に入室した

図005

そこに、奇数一行が訪れた。こちらも総勢は無限大だ。そこで、支配人は偶数一行に、自分の数と同じ番号の部屋に移るよう依頼した(図006)。

図006■偶数は自分の数と同じ番号の部屋へ移動した

図006

空いた奇数番号の部屋に奇数一行が入り、ホテルは再び満室になった。

図007■奇数番号の部屋に奇数一行が入ってホテルは満室に

図007

パラドックスとして疑問が生じるのはつぎの2点だろう。

無限の数は個数で確かめることはできない。「基数」あるいは「濃度」で比べる。1対1の対応が成り立てば、基数(濃度)は同じとなる。自然数は有限の個数で比べれば偶数や基数の倍になる。けれども、無限でみたときの基数は3つとも同じだ。フィルムとスクリーンやホイールとタイヤの場合も、それぞれに含まれる無限の点の基数は等しい。

現実のタイヤは点と点が対応するのではなく、多角形のように部分(辺)と部分(接地面)が合うように転がるので、1回転で周の長さだけ動くことになる(図007)。

図008■現実のタイヤは多角形と同じく部分に部分が対応して転がる

図008

03 アキレスはカメに追いつけない

「アキレスはカメに追いつけない」という話は、「ゼノンのパラドックス」として知られる。先を歩くカメの位置にアキレスが着くと、カメは少し先に進んでいる(図009)。さらに、その位置まで走っても、カメはもう少しだけ先にいる。これをずっと繰り返すと、アキレスはカメに追いつけない。

図009■アキレスがカメのいた位置に着くとカメは少し先に進んでいる

図009

このときも、追いつけないはずがないと計算してみせるのは、あまり意味のある反応ではない。一応簡単な数字を当てはめてみる(図010)。

図010■簡単な数字を当てはめてみる

図010

t秒後のアキレスとカメの位置が等しくなったとき追いつく。だが、これはパラドックスの説明にはならない。

2t = 10 + t
t = 10秒

このパラドックスの議論における問題は、経過時間を確かめてみたとき、つぎのように決して追いつく時間(10秒)に達しないことだ。追いつく時間が経たなければ、追いつけないのは当たり前ということになる。

経過時間
5
7.5
8.75
9.375
9.6875
9.84375
9.921875
9.9609375
9.98046875
9.990234375

無限に正数を加算をしたからといって、いくらでも大きな数値になるとはかぎらない。無限の加算が有限値に収束する場合もある。

このパラドックスと似た考え方が、アニメーションのイージングに使われる(サンプル001)。パラドックスと異なり、毎回一定時間が経過するものとする。そして、アキレスとカメの移動距離の比を保つ(図011)。

図011■計算例ではアキレスはカメとの距離をつねに2/3縮める

図011

以下のサンプル001では、つぎのコードのようにマウスポインタの位置をカメに置き替え、アニメーションするペンギンをアキレスに代わって追いかけされた。ふたつのxy座標の差(distanceXとdistanceY)を求めて、アニメーションするキャラクタ(achilles)の位置を一定比率(ratio)で近づけている。これが、イーズアウトの動きになる。


var distanceX = turtleX - achilles.x;
var distanceY = turtleY - achilles.y;
achilles.x += distanceX * ratio;
achilles.y += distanceY * ratio;

サンプル001■EaselJS 0.8.2: Infinit addition

無限のパラドックスに、有限の常識は通用しない。


作成者: 野中文雄
作成日: 2016年5月2日


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